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執筆者の写真大橋美加

No.82『海の沈黙』

更新日:2023年5月5日

1947年 フランス映画 ジャン・ピエール・メルヴィル監督 (Le Silence de la mer)

本作は 2010年に岩波ホールで ロベール・ブレッソン作品『抵抗』とともに特別上映された際に初めて観た。 『抵抗』は何十年もまえのリヴァイヴァル上映で観ていたが、 J.P.メルヴィルの本作に関しては、その際に初めて観ることが叶った。

モノローグとナレーション、クロース・アップが海のように押し寄せてくる。 通常、登場人物同士が言葉を交わすのがドラマであるのに、 何だ、この映画は?と見入った。

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舞台となるのは1941年、フランスの地方都市。 老年の伯父と若い姪が慎ましく暮らす家の二階に、 ドイツ人将校が間借りする。 夜、伯父と姪が寛ぐ居間に降りてきて、 あくまで礼儀正しく滔々と持論を繰り広げる将校。 只々、沈黙で返す老人と姪。ドイツ表現主義の映画よろしく、 大きな影と柱時計の規則的な音に支配される空間。 いったい何が起こるのだろう?この将校は何をしたいのだろうと、 不安がつのる。

立ちかえれば、映画に於けるモノローグはタブーとも言えるわけで、 本作から台詞を除けば、ほぼ理解不可能となる。 第二次大戦中、レジスタンス活動に参加したメルヴィルは、 かなりの低予算で長編第一作である本作を作り上げた。 ジャン・ヴェルコールの原作に共鳴したとのことだが、 単に人種間の物語と受け取るより、 人間同士の対話の可能性を探るほうが興味深い。

姪のたったひとことの台詞、 ”アデュー”というタイトルのシャンソンを想い出す。

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