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執筆者の写真大橋美加

No.81『浮雲』

更新日:2023年5月5日

1955年 日本映画 成瀬巳喜男監督

成瀬映画の女性たちは美しい。 女優の個性を活かす名人。殊に高峰秀子。 子役時代からのキャリアを誇ったこの名女優の、 様々な顔を見せてくれる。 林芙美子原作の映画化は何作も手がけている成瀬監督の、 海外でも特に評価の高い一作。

”腐れ縁”という厭な言葉が纏わりつく。 娘時代の爛れた性体験により、 若くして半ば人生を投げやりなものにしている主人公ゆき子。 それでも、単身渡った仏印の地で知り合った妻ある男との関係が、 ここまで”腐れ縁”となるとは、予想外ではなかったか。

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高峰秀子の端正な横顔を、黒白画面が引き立てる。 清楚な面差しと、やや崩れた響きの声のアンバランスが唯一無二。 妻ある富岡を演じた森雅之も、多くの名匠たちに起用された俳優。 ”シネマフル・デイズ”No.79『雨月物語』では 京マチ子の相手役を務めた。大スター女優の相手役をこなせる役者。 主演では黒澤作品『白痴』(’51)が白眉!

恋愛については、自分自身にルールを課してきた。 もちろん、ルールを破りたくなったことはある。 成瀬映画の女たちは、ふたつの後悔に苛まれる。 してしまったことへの後悔、そして、出来なかったことへの後悔。 本作のゆき子は限りなく哀しいヒロインだが、 ”出来なかったことへの後悔”はなかったに違いない。

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