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執筆者の写真大橋美加

No.75『海と毒薬』

更新日:2023年5月5日

1986年 日本映画 熊井啓監督

黒白であるべき映画。黒白で救われた映画。 カエルの解剖すら怖気づくのだから、カラーなら到底見られない。 遠藤周作の原作を、社会派の熊井啓監督が 構想から17年後に完成させた力作である。 太平洋戦争末期の1945年、九州の或る大学の医療機関で 研究と診療の日々を送る、二人の医学部研究生。 奥田瑛二扮する繊細でやさしい勝呂と、 渡辺謙扮する利己的な戸田、中背の優男と長身の強面、 この二人、精神面に於ける己の人生を左右する出来事に対峙することとなる。 米軍捕虜を生きたまま解剖するという実験に参加を余儀なくされるのである。

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メイン・テーマに至るまでの、 この時代の医療機関の日常描写は心に迫ってくる。 重い病に罹患したら、死とは隣り合わせ。 ”with COVID-19”までも、”病との共生”などあり得ない時代であったと 見せつけられると、改めて身震いがする。

男性陣は田村高廣、成田三樹夫、西田健など名優が揃っているが、 今回、観なおして注目したのは女性陣。 看護師長を演じた岸田今日子、ワケアリ看護師の根岸季衣、 勝呂が執着する最初の患者に扮した千石規子、生々しく緊張感あふれる存在感が素晴らしい。 海で始まり、海で終わる、贖罪なき物語。 続編を撮れないまま、熊井監督は亡くなってしまった。

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