1994年 イタリア映画 マイケル・ラドフォード監督
(Il Postino)
”隠喩”に魅せられた、郵便配達夫の物語。 1950年代、限りなく美しい海に囲まれたカプリ島。 殆どの住民が文盲であり、漁師の息子ながら文字の読めるマリオは、 郵便配達夫の仕事を得る。 手紙を届ける相手はたった一人、 折しも母国チリを追われてこの島にやってきた 大詩人パブロ・ネルーダその人。 高名な芸術家でありながら、 何処か茶目っ気のあるネルーダと言葉を交わすうち、 詩の魅力を知るマリオ。
公開時に観たときと比べ、今回観なおして余情があふれだす。 ラスト・シーンに涙が止まらない。 二人の子を懸命に育てながらステージに立っていた当時、 他の感情は忘れていたのか、 それとも後進指導の仕事をしていなかったからか。 誰かに影響を与えるということの重さ、 他者の人生を変えてしまうかも知れない怖さが、押し寄せる。
マリオ役が遺作となったマッシモ・トロイージの演技には、 『ブラック・レイン』に於ける松田優作とは異なる緊迫感があり、 巨匠たちに愛された名優フィリップ・ノワレは 実際にイメージの似通うネルーダを楽し気に演じきる。
オスカー(作曲賞)を受けた、心の琴線に触れるテーマソングは、
フェリーニがニノ・ロータ亡きあとに望んだコンポーザー、
ルイス・バカロフの手になる。旅に行きにくいこの時世、
この海、この旋律、この情感に身を委ねよう。
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