2013年 ドイツ・ハンガリー合作映画 ヤーノシュ・サース監督
(Le Grand Cahier)
ハンガリー出身の作家、アゴタ・クリストフの 映画化不可能と言われていたロング・セラー小説を、 ヤーノシュ・サース監督がついに映画化した一作。
舞台となるのは第二次世界大戦下、主人公である双子の少年が、 母親に連れられて、ブダペストから田舎町の農場へやってくる。 待ち受けるのは、初めて会う祖母。 村人から”魔女”と呼ばれる大きく太ったこの祖母は、 孫たちを”メス犬の子”と呼び、こき使う。双子は毎日毎日、日記を綴ってゆく。 目で見るもの、耳で聞くものを只々、記してゆく。
普遍的な寓話でありながら、繊細で幻想的なアート感覚にもあふれ、 多くを語らず見せつけてゆく見事な手法。 何より驚異的なのは、双子に扮する、実際に貧しい村の出身という アンドラーシュとラースロー・ジェーマント兄弟。 美しさと野性を湛えた面差し、敏捷な小動物のような瞳、 監督自身、彼らを見つけられたことを”MIRACLE”と呼ぶ。
戦場を直接みせることなく、戦争を物語ることができるかと、 訴えるサース監督。 天使が魔物に変貌してゆくのが戦争であっても、 希望は見つけ出さねばならない。 希望は犠牲の果てに存在するのか。 生き抜くということの尊さと酷さが交錯する、 傑作の名で遺されてゆくべき作品である。
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