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執筆者の写真大橋美加

No.225『恍惚の人』

更新日:2023年4月12日

1973年 日本映画 豊田四郎監督

”恍惚”という、このうえなく 陶酔的な言葉の印象を一変させた有吉佐和子の原作と、 森繁久彌主演の映画化作品。 タイトルは流行り言葉にまでなった。

公開当時、我が最愛の祖母は60代前半にして 立派に主婦を務めていたし、 88歳で亡くなるまで、頭ははっきりしていた。 2016年に他界した我が父、今年89歳を迎えた我が母も然り。 義父母は言うまでもなく、しっかりしてくれている。 こう書いて、まったく自分は果報者と思わざるを得ない。

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嘗て老人性痴呆症と呼ばれた病に蝕まれてゆく老人に扮した森繁。 撮影当時60歳に届くかどうかの実年齢で84歳の役を、 まさに主人公が乗り移ったかのような渾身の演技で見せる。 舅に冷遇されてきた身でありながら、 全てを引き受けることになる嫁に高峰秀子、こちらも大熱演!

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黒白画面に雨が降る。 傘もささず彷徨う老人の姿で始まるところが巧い。 無駄なく物語り、観客の目を離さずに、 再び雨のシーンでクライマックスとなる。 宙を追う老人の眼と不安定なカメラワークは、観客の恐怖心を煽る。 そういえば、フローリアン・ゼレール監督による秀作 『ファーザー』(2020)も、ホラー映画の如き怖さがあった。

”死”も”認知症”も、未知なるものは恐ろしい。 羽田澄子監督はドキュメンタリー作品 『痴呆性老人の世界』(’86)『安心して老いるために』(’90)により、 恐怖を緩和してくれた。 すべての人間の行く末の物語、様々な角度から観るべきかと信じる。

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