1962年 アメリカ映画 アーサー・ペン監督 (The Miracle Worker)
子守唄は誰のためにあるのだろう。 もちろん、我が子のため、別れた愛しいひとのため。 いや、もしかしたら、自分のためにあるのかも知れない。
小学校の教科書で知ったヘレン・ケラーの存在を、 映画『奇跡の人』で初めて観たのは、名画座でだったかな。 メロディはきっと子どもの頃から聞いていたはずの、 マザー・グース”Hush Little Baby”の歌詞を 知るきっかけは本作であり、観おわったあとも、ずっと耳に残っていた。
まず、黒白で撮ったことが勝因。誰もが知る奇跡的な物語を、 観客から距離を持たせることに成功している。 そして、何といっても二人の女優の力。 サリヴァン先生に扮したアン・バンクロフト、ヘレンを演じたパティ・デューク、
舞台でのキャストが映画に移行されただけのことはあり、 ほかを寄せつけない二人の世界が構築され、 ともにオスカー受賞もうなずける。
”The Miracle Worker”アニー・サリヴァンが、 ヘレンの父親から「君はこの子を好きかね?」と訊かれ、 「あなたは?」と訊き返すシーンがある。 先妻との間にも、ヘレンのあとにも子のある父親は一瞬、答えられない。
一途ではあるが苦労人のサリヴァンが、 相手の言葉尻を捉えて真意を突くやりとりであり、今回、観なおしてドキッとした!
亡くした愛しい者へ、ひとり子守唄を歌うアニー・サリヴァンの姿には、
何度観ても涙を禁じ得ない。
我が子に何でも与えてあげるという
”Hush Little Baby”の歌詞が、虚しく響くシーンである。
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