1960年 フランス映画 アンリ・コルピ監督 (Une aussi longue absence )
鏡を通して目が合う男女。 ジューク・ボックスのまえに少し離れて並ぶ二人の後ろ姿。 忘れ難いシーンが在り過ぎる。 また暫くは、アリダ・ヴァリが扮した テレーズの喪失感を肩代わりしてしまうのだろう。 女には、きつい一作である。
カフェを営む、ヒロインのテレーズ。 中年の大柄美人でありながら、独り身の様子。 彼女を慕ってか、身の上を案じてか、 常客には運送業や警官など、さまざまな男たちの姿が見える。 ヴァカンスの季節となり、人影も疎らとなった街。 ある日、オペラ『セビリアの理髪師』のナンバー ”陰口はそよ風に乗って”を歌いながら歩いてくる浮浪者の顔を見て、 愕然となるテレーズ。
矢も楯もたまらず、男のあとを追うテレーズ。 物静かなこの男の趣味が、 雑誌に掲載された写真を切り抜きにすることというのが、映像的。 テレーズから食事に招かれた男が、 切り抜きをプレゼントするシーンには、観客の心も揺らぐ。 高鳴る心の内を抑えつつ、熱心に話しかけるテレーズ。 意に介さないふうの男。 ミステリアスに進む物語。
信じたい想いと、解き明かせない真実が酷い。 戦場シーンを描かずして静かに反戦を訴える、 力強い一作品である。
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