1997年 イラン映画 アッバス・キアロスタミ監督 (Taste of Cherry)
キアロスタミ作品との出逢いは忘れ難い。ドキュメンタリーとドラマの垣根をやすやすと越え、 素人の子どもたちの素朴で愛らしい姿にも魅了された。 それらが、イラン政府による検閲を逃れるための手段であることを知ったのは、後のこと。

彼の作風に慣れた頃に観たのが本作。 黄土色の画面、土埃にまみれた一本道を走る車。
運転する中年の主人公は、これはと目を付けた男たちに声をかけ、 とある無理難題を持ちかける。 自分の最後を見届けてくれというのだ。 ラストに独自の驚きをもたらすキアロスタミ作品、さて、今作は?

問題提起しながら理由を示さず、敢行に向かうストーリー・テリング。 人種も年齢も異なる登場人物たちは、 主人公の人生の方向を転換させることが出来るのか? 果たして主人公の真の望みとは? 一台の車があれば、映画は作れると証明したロッセリーニにも、本作を観て欲しかった!

キアロスタミ作品との別れも忘れ難い。
日本を舞台に日本人俳優を起用し、我らがエラ・フィッツジェラルドのうたう
”Like Someone In Love”をテーマソングとした同名作品が遺作となり、呆然。
小津ファンで日本贔屓。お会いできなかったことが、只々残念。
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