No.102『大人は判ってくれない』
更新日:5月4日
1959年 フランス映画 フランソワ・トリュフォー監督 (Les Quatre Cents Coups)
今でも小さなカフェの壁に、とっくりセーターの襟を伸ばして 口を覆う少年のポスターを見ることがある。 亡き野口久光先生の手になる、アントワーヌ・ドワネルの姿。 途端にせつなさが込み上げる。 本作はトリュフォー監督の記念すべき長編第一作であり、 新しい映画の夜明けを見せつける、みずみずしい傑作。

美しいモノクロームの街角を映していくカメラ。 低いアングルは、12歳の主人公アントワーヌの目線を想わせる。 いわゆる問題児である彼の日常を、説明を排除し、 少年の存在感のみを最大限に引き出すトリュフォー。 ヌーヴェル・ヴァーグの同士ともいえる、 ジャンヌ・モローやジャン・クロード・ブリアリなども友情カメオ出演。

トリュフォーの分身的なアントワーヌを演じた ジャン・ピエール・レオーは、本作後も『二十歳の恋』(’62) 『夜霧の恋人たち』(’68)『家庭』(’70) 『逃げ去る恋』(’79)と、”アントワーヌ・ドワネル”を生きてゆくことになる。 この実験的にして類想のないシリーズを作り上げ、 さらに”愛のシネアスト”として普遍的な ラヴ・ストーリーの数々を紡いだトリュフォー。 52歳の死は早すぎるが、遺した名作を観る倖せが私たちにはあるのだ。