1964年 伊・仏 合作映画 ミケランジェロ・アントニオーニ監督
(IL DESERTO ROSSO)
澱んでいる。時が動かず、進まない。 アントニオーニ作品には常に気怠さが付き纏うが、
本作は初のカラー作品であり、改めて色彩感覚に感心する。 いや、こだわり抜いたのか?
工業都市ラヴェンナの河原を、 幼い息子を連れてヒロインが歩いてくる。
アントニオーニのミューズとして知られたモニカ・ヴィッティ。 赤毛にグリーンのコートが映える。
彼女は工員らしき男が立ち食いしていたパンをお金を出して譲り受け、 人目を気にしながら草陰で貪る。この怖さ、唐突!
心の病は見えない。本当に病んでいるのか、 それとも病んでいると思い込みたいのか。
何不自由ない人妻の心の闇を、 現実とも妄想とも受け取れる描き方をしていくアントニオーニ。
わざとフォーカスを合わせないカメラワークにも、 全てが観客に委ねられていることが見てとれる。
唯一、パッキリと美しく映し出されるのが、 ヒロインが幼い息子に聞かせる物語を映像で具現化するシーン。
目の覚めるような海の色、褐色の肌の少女。 そして、タイトル・バックに流れる、 あたかもセイレーンの歌のような声・・・
アントニオーニは決して”FAVORITE”ではないが、 たまに観かえすと、価値を再確認できる映画作家である。
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