大橋美加のシネマフル・デイズ
1947年 アメリカ映画 チャールズ・チャップリン監督
(Monsieur Verdoux)
「1人を殺せば殺人者、100万人を殺せば英雄か?」
有名なチャップリンの台詞だが、果たして本作で彼が言いたかったことは?
雑然とした居間が映し出され、小母さんたちが小言をいい、
若めの男はソファに寝そべったり、食卓で文句を言ったり。
観客が「此処は誰の家?」と思い始めるころ、一枚の写真がクロース・アップとなる。
ベレー帽にチョビ髭ですまし顔の中年男、チャップリン扮するムッシュ・ヴェルドゥである。
おきまり”TRAMP“の出で立ちではないチャップリン!
金持ちの中年女性を狙う詐欺師ヴェルドゥ。
チャップリン作品でありながらスラプスティック要素が軽減され
観客が不安になるあたりで登場するのが、豪快なコメディエンヌのマーサ・レイ。
ヴェルドゥにはゾッコンらしいが、大声でゲタゲタ笑い、まわりを煙に巻く未亡人。
生命力にあふれ、殺しても死なないような(笑)女性!
彼女の存在により、シリアスなストーリーにストレートな笑いがもたらされ、観客はほっとする。
何故なら、観客はチャップリン扮するヴェルドゥに、
これ以上殺人を犯して欲しくないから。
キャスティングも演出もうますぎる!
貧困の生む悲劇、戦争という巨悪はわかりきっていながら、人間は翻弄されてゆく。
ヴェルドゥが往きあう若い未亡人に扮したマリリン・ナッシュの徒花の如き美しさも忘れ難い。
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