大橋美加のシネマフル・デイズ
1988年 ポーランド映画 クシシュトフ・キエシェロフスキ監督
( A Short Film About Killing )
澱んだ色、歪んだ画面。
鼠の死骸が浮いた水たまりを映し出す
緑色がかったファースト・ショットは忘れようがない。
これから見せられるドラマを否が応でも推測してしまう滑り出し。
街をふらつく荒んだ顔つきの若い男。
身勝手そうな巨体のタクシー運転手。
晴れて法律家となり希望に満ちている男。
向き合うことはないであろう三つの人生が皮肉に接近する。
人が人の命を奪うという行為の恐ろしさ、おぞましさを、
理由を提示せずにこれでもかと叩きつける、
演出とは割り切れないほどのショッキングな描写。
あっという間に人生を駆け抜けたクシシュトフ・キェシロフスキ。
54歳の死は早すぎる。
彼が愛と死の継ぎ目に打ち込んだ楔に、
我々映画ファンは手が出せないままである。
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