大橋美加のシネマフル・デイズ
1954年 日本映画 溝口健二監督
溝口作品に接すると、日本人に立ちかえる。
殊に説話を題材にした物語には、いにしえの日本人の生き様が心に迫りくる。
安寿と厨子王の物語は小学生のころに読んだと記憶しているが、
本作は森鴎外の小説を下敷きとした作品。
位のある一家が悪人の仕業により奴隷として売られ、
酷い生活を強いられる理不尽が、これでもかと描かれる。



本作に於ける“悪”は、進藤英太郎が扮する、
山椒大夫と呼ばれる大地主に代表される。
進藤はお世辞にも美男とは言えない面構えだが、
聴き応えのある声と迫力で、この鬼のような地主を演じきる。
悪役に印象が深いが、頑固なオヤジさん役までこなした人。
こういう役者、今はいないよなあ…
香川京子の凛とした佇まい、哀れの極みを表現する田中絹代。
やはり溝口作品は女優でキマる!
漸く辿りついたラストシーンにも浄化されない無念が、
画面から漂い出てくるようだ。
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