大橋美加のシネマフル・デイズ
1960年 アメリカ映画 アルフレッド・ヒッチコック監督
(PSYCHO)
ジャネット・リーがおちょぼ口でパンをすこしずつ齧る。
トーストもしていない冷たそうなパンにバターを塗りながら。
見つめるアンソニー・パーキンスが「小鳥のように食べるね」とひとこと。
「鳥は少食と思われているけれど、本当はたくさん食べるんだ」と続ける。
壁に散在する、鳥の剥製…。
ヒッチならではの、不気味きわまりないシーンである。
魔が差し犯罪に手を染めての逃避行の途中で、
寂れた町のモーテルにやってきた美しい女が、
想像を絶する事件に巻き込まれてゆく。
実験的要素も含め、サスペンス満載の冒頭から一転、
まったく別の物語になってしまうところも斬新。
感性を逆なでするスコア、我が目を疑うカメラワーク、
パーキンスの倒錯的な演技!
セルフ・リメイクを何作か手掛けたヒッチであるが、
本作はガス・ヴァン・サントにより、かなりそっくりにリメイクされた。う〜ん、疑問!
パーキンスは歌も上手く、ジャズソングを歌ったアルバムもあり、
美貌と美声を兼ね備えた役者であったことがわかるが、
本作以降は“ノーマン・ベイツ”のイメージが焼きついてしまった感が否めない。
他の追従を許さない怪演は遺したが、はたして幸運な選択だったのだろうか…
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