2008年 ポーランド・フランス合作映画
イエジー・スコリモフスキ監督
(Cztery noce z Anną)
この時世に観るべき映画とは思えない。 希望も救いも見いだせない、 ”不器用”という言葉でも括れない、絶望的な愛の物語。 いや、果たしてこれは”愛”なのだろうか。
”ア”から始まる手持ちの映画のなかで、 本作について書かずにはいられない。
鬼才・スコリモフスキの名を忘れていた頃に、 17年の時を経て発表された衝撃的な作品である。
時が止まったような、絵画を想わせる景観。 主人公はポーランドの小さな町に暮らす孤独な中年男レオン。
彼がブロンドの肉付きの良い看護師アンナになぜ固執するようになったのかが、フラッシュ・バックを挿入しながら提示されてゆく。
眼をそらしてはいけない。台詞は省略され、 説明的な演出も一切ない。 構築された静かで残酷な世界から抜け出せなくなる。
眠るアンナの足の爪に赤いペディキュアを施す恍惚感。 そもそも、男は目で見るだけで欲望を満たすことができるが、 女は男の欲望を煽らなければ、 自らの欲望を満たすことはできない。
一見、異常極まりないこの物語は、実は主人公にとり、 無難な愛の形であったはずなのか。一線さえ越えなければ。 スコリモフスキだけが描ききることのできる、 厳しく限定された世界。 この際、足を踏み入れてみては?
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