1999年 日本映画 大林宣彦監督
おじいちゃんの眼鏡をかけた。
目の前にある巨きな橋やフェリーが消え、海だけが見えた。
「橋のありがたさを人は忘れる、だから元気な人は泳いで渡ればいい」と、
おじいちゃんは言った。
名優・小林桂樹が扮した白い夏帽子に単衣の着物姿のおじいちゃん。
麦わら帽子の孫息子に扮したのは、大林監督が見出した
天才子役・厚木拓郎。撮影当時9歳。
目を閉じて、息を止めて、おまじないの文句を唱えれば、 おじいちゃんとなら、空を飛べる。 ”祖父”という存在を知らずに育った私にとって、 何度観ても涙があふれるシーン。

大人への扉をすこしだけ覗くのは、夏。
年上の少女の肌にときめくのも、夏。
こんな映画を作れるひとが、ほかにいるだろうか。
2020年の夏を見ぬままに、大林監督は逝ってしまった。
私にとっての”心の父”、
作品に出演させていただいた我が子らにとっても
”第三の祖父”のような、大きすぎる存在であった。
でも、監督が遺してくれた宝もののような映画を、
私たちは観つづけることができる。
時世により公開延期となった
監督の遺作『海辺の映画館 キネマの玉手箱』は、
大人になった拓郎くんも出演している
”ファンタスティックな反戦映画”である。
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